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ヘタリア

 ヘタリアというアニメがある。ニューヨーク在住の日本人漫画家が自身のウェブサイトに掲載していた漫画が原作らしい。ウィキペディアの解説によると、次のような物語だ。

本作品は、世界史をモチーフの主軸とし、世界の様々な国固有の風俗、風潮、気風、風土等を人型に模したキャラクター達が織り成す、国擬人化歴史コメディである[1]。

WW1-WW2を時代背景に始まり、主人公イタリアと枢軸国を中心に、彼らを取り巻く世界中とのドタバタを史実とエスニックジョークを交えたほのぼのとしたタッチで描く。モチーフは必ずしも世界史ではなく、時事ネタやキャラクターのオリジナルエピソードも多く含まれる。元来のWeb漫画という性質上、作品データの更新が激しく、現在では確認出来ないデータも数多くある。エピソードには、2ちゃんねるの軍事板等を参考にしたものも含まれている。
(ウィキペディア「Axis powers ヘタリア」の項目から引用)


 ヘタリアという名前はユーチューブとかニコニコ動画とかで何回か見かけていたのだが、右翼的言説とかと関連したMAD動画にキャラクターが勝手に使われているだけなのだと思っていた。そしたら、もともと原作から、国や歴史が絡んだ内容だったということは、最近知った。というか、昨日アニメを見て、結構面白くてはまってしまった。で、ネットでいろいろ調べていたら、韓国が抗議してアニメ放映が中止になったとか、日本でも賛否両論だとか、なんか去年の今頃は大騒ぎだったのだということを初めて知った。

 まあ、俺も人類学者の端くれで、ハリウッド映画に見られるステレオタイプの日本人像とかの問題を考えてきたつもりなので、韓国の言い分はわからないでもない。ちなみに韓国の抗議文はこれ。確かに、このアニメは最初に見たときから、問題が生じる可能性は否定できないと思っていた。特にイタリアとかは、ある意味、ひどい扱い方をされているわけで、俺がイタリア人だったら怒るだろうみたいな感じだ。で、こういうのは、嫌だと感じる人がいるのだったら、それはそれとして受け入れるしかないというのが俺の考えだ。

 ただ他方で、俺はこの漫画やアニメは今のところそこまで問題はないようにも感じている。いちお何年もオリエンタリズムとかマスメディアにおける文化の表象過程に潜む政治性みたいなことを考えてきたし、そのような目でいろいろなものを見てきた。異文化を尊重する保守主義として、韓国文化を含むすべての文化を尊重しているつもりだし、差別的言説には反対してきた。特に、日本のテレビ番組に頻繁に見られる人種差別的映像などには、うんざりさせられてきたわけで、いちお自分としては、そっち方面に敏感に反応しているつもりだった。それが、なぜかこのアニメや漫画にはそこまでの不快感は覚えなかった。理由はわからない。ただ俺には、この漫画が国をあげて非難するほどの問題点があるようには思えなかった。もちろん問題がまったくないというわけではない。ステレオタイプまがいの一般化が行われているのは確かだ。まあ、韓国の人が不快感を覚えたというのであれば、もちろん俺にはそれ以上何かをいう権利はないし、その意見を素直に受け入れるべきだろう。そして、韓国の漫画や映画などのエンターテイメント作品においても、日本がどのように表象されているのかということに関しての議論も同様に行われるようになるだろうし。。。とにかく文化とか国民性に関してクレームをつけられたら、表象されたものの痛みってのは、その人たちにしかわからないのだから、そのようなものを表象した側は基本的に反論など出来ないし、するべきではないので、そこらへんは、これ以上書くのはよそう。

 ただ、韓国の抗議文の中に、この漫画やアニメが枢軸国を美化しているという文があったのだが、俺はそのことに関しては言論の自由という観点から、反論しておきたい。ドイツや日本などの枢軸国を悪と決め付けることは歴史を善悪二元論に単純化しているだけである。まあこの漫画自体、歴史はほとんど関係していないのであるが、あえて言わせてもらえば、日本やドイツの歴史観の作品などがあっても問題ではないし、むしろあるべきなのだと思っている。そうでないと、歴史は勝者や権力者によって利用される物語に成り下がってしまう。すなわちある特定の歴史を受け入れるということは、しばしば権力の正当性を受け入れるということにつながる。歴史の中に潜む政治性と対決していくためには、多角的な視点が必要であるだろうし、特に敗戦国としての日本は、別に戦勝国の歴史観を100パーセント受け入れる必要はないと思っている。「自由と平等のための戦い」や「ファシズムとの戦い」などという美辞麗句は戦勝国が自分たちの正当性を喧伝しているにすぎず、そもそも自由や平等なども絶対的な価値観ではないのだから、多様な価値観という観点からは、そのような特定の歴史観だけを歴史の真実として受け入れてしまうことのほうがよっぽど問題だと思う。ちなみに日本とドイツが絡む戦争映画では、映画『ラストUボート』が俺は好きだ。

 まあ、でもヘタリアには、そもそも、そこまでの歴史は語られていないような気がする。この漫画は、ただのパロディであり、国民性を示そうとはしているが、歴史に関しての記述は相当いい加減である。大きな流れはあっているようだが、細かい点はひどい。例えば、第二次世界大戦における連合国の動きなどはイギリスとフランスが主なプレイヤーで、別の場所でソ連(ヘタリアではロシアになってしまっているが)は他の国と距離を置いて戦っていたわけだし、中国(ヘタリアでは中国になっているが、中国国民党なのか中共なのか両方なのかまったくわからない)の動きも、歴史をまったく反映していない。漫画ではアメリカが常にリーダーとして振舞っているが、戦争前は、まだそこまでのリーダーシップは取れなかっただろうし。そもそも、もし本気でそれぞれの国を擬人化するとしたら、ロシアもアメリカも中国もイギリスも、すべての国が古だぬきみたいに狡賢いキャラクターにしなくてはいけないだろうし、もちろん日本やドイツもそうなるわけで、まあ、その辺は国民性を反映したキャラとは異なってくることは必至だ。そういうわけで、歴史なんてほとんど反映されていない。ただ歴史の大きな流れは掴んでいるのかもしれない。俺はヨーロッパの歴史はそこまで深く知らないのだが、まあローマ帝国が衰退して、フランスとかイギリスが力を強めていったとか、ハプスブルク家が出てきたみたいな流れは、ある程度正しいだろうし、そのような大きな歴史の流れが、それぞれの国の国民性に影響を与えているだろうし、そういった部分には学ぶべきものがあるように感じた。

 では、この漫画のテーマである国民性という概念には問題はあるだろうか?実は、俺がこの漫画を面白いと思ったのは、ヨーロッパの国々の国民性に興味を持たせてくれたからだ。そして、それはあながち間違っていないのではないかと思ったからだ。ただ、今まで国民性という言葉を平気で使っていたのだが、実は国民性という単語は人類学ではあまり評判がよくない。そのような国民性の議論の延長線上にステレオタイプとかが来るわけだし、最終的には韓国のクレームみたいなものに行き着く。ただ、あのクレームは別に韓国だからというわけではなくて、どこの国でも起こりうることである。国民性なるものを題材にしているこの漫画は本質的にそのような問題を内包している。それでは、そのような問題があってまで国民性などというものを議論する必要があるのだろうか。おそらく人類学を勉強している人たちは、人類学を専攻していたといいながら「国民性」という単語を平気で使っていることに俺に対して違和感を覚えたり、こいつ大丈夫か?と思ったりしたかもしれない。そもそも国民性というのは存在するのだろうか?それともただの幻想に過ぎないのだろうか?そのことについて少し考えてみたい。
 
 国民性とはもともと人類学者の十八番だった。第二次世界大戦のときに日本やドイツと戦うためにアメリカは人類学者に依頼して、日本やドイツがどのような国民性で、どのように戦ったらいいかということを調査した。日本の研究者はルース・ベネディクトであり、アメリカの日系人をインタビューしたり本を読んだりして、日本に行かずに日本人論を書き上げた。それが有名な『菊と刀』だ。ルース・ベネディクトの後輩で恋人だったかもしれないと言われているのが、『サモアの思春期』などを書いてフェミニズムにも大きな影響を与えたマーガレット・ミードである。この二人は「アメリカ人類学の父」と呼ばれたフランツ・ボアズの弟子なのだが、ベネディクトの「国民性」研究はパーソナリティ論などを取り入れたミードの国民性研究に受け継がれた。もともとボアズの弟子だったので、彼女たちは最初から文化相対主義が前提となった議論を進めている。ただし、相対化したのは文化間の違いであって、社会内部の多様性は無視される傾向があった。社会内部の多様性を無視することによって、平均的な国民気質を抽出することが出来たのだ。

 ポストモダンが人類学に導入され、社会の標準的な行動様式よりも、逸脱した行動などや個人差など、社会内部の多様性に注目するようになると、国民性というものは評判が悪くなる。なぜなら、国民性という幻想が多様な個人のあり方を抑圧してしまっていると考えられたからだ。つまりポストモダン状況では、標準的な個人よりも、逸脱した個人というものが注目されるようになったのである。しかしながら、この「逸脱」を研究するためには、標準とは何かということを知らないといけないわけで、そこには、その社会における標準的な考え方や行動様式というものが前提とならざるを得ない。つまり、標準的な考え方や行動様式がないところには、「逸脱」というものは存在しえない。あるのは、ただのカオス的状況だけだろう。そう考えていくと、個人の多様性を研究している人類学者も標準的な行動様式というものは否定してはいないわけだし、むしろそれを見つけ出すことが研究の第一歩になっているはずだ。だから国民性というものの存在が前提なのだ。

 アメリカに住んでいて感じたことは、日本人とアメリカ人の間には少なからず国民性の違いは存在するということだ。もちろん社会内部の多様性は存在するし、日本人とアメリカ人の間でも、ある程度の特徴は重なり合っている。例えば俺の持っている日本人のイメージに限りなく近いアメリカ人や、逆に俺が考えるアメリカ人像に近い日本人などはたくさんいるわけだ。だから、アメリカ人はこうであるべきだとか、日本人はこのような人たちだとかいう本質主義的なステレオタイプに陥ってはいけないのである。ただ、やはりアメリカ人的な行動様式というものは存在するわけだし、日本人的な行動様式とは大きく異なるケースも多い。アメリカの多様な行動様式は、アメリカ人的行動様式が存在しないということではなく、そのような標準的な行動様式は存在するが、アメリカ人が各々そのアメリカ的行動様式を取捨選択し、時に意図的に変更したりすることで多様性を生み出している。つまり国民性や標準的な行動様式はあるのだが、個人はそれを選択・改変する自由を持っているというわけだ。その意味で、国民性や行動様式は固定的・不変的ではなく、長期的に見ると常に変化している。そのようなことに十分自覚的であれば、「国民性」を前提に議論したり考えたりすることは、意義あることだと思う。特に異文化理解をしようとすれば、まずは、標準的な行動様式というアンカーがなければ、何も始まらないのではないだろうか。このような事を考えてくると、ヘタリアという漫画も国民性を理解するうえでなかなか楽しめる内容のような気がする。まあ数年前に流行った『世界の日本人ジョーク集』 とかを俺は読まず嫌いでいるわけだし、同じようにヘタリア自体嫌いな人がいても、それはそれでしょうがないとは思うのだが。。。

 そういえば、言い忘れていたことがあったので、付け足す。俺がヘタリアを評価している理由は、他の国の国民性を馬鹿にしたいからではない。そうではなくて、イタリアの行動などを見ていると、今の日本がダブって見えてしまったのが可笑しくて悲しかったからだ。そして、そのようなイタリアの国民性がもし正しいとするならば、歴史的・地理的経緯が絡んでいるのだろうと思う。もしそうならば、日本がこれからどのような国になっていくべきかということに関して、西洋史から学べることが多いのではないかと思ったわけ。まあさっきも言ったように、ヘタリアで歴史を学ぶことはできないが、それでも、この漫画によって日本人が西洋史に興味を持つようになって、日本について考えるきっかけを与えてくれたのならば、ある程度評価してもいいのではないかと思うのである。

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私は、保守主義のコミュニタリアンです。文化相対主義を追求するなら、すべての文化を尊重する保守主義しかないと信じています。ただリベラルと保守はある程度両立する概念だと思っているので、基本的にはリベラルでもあります。なので、自分としては中道右派ぐらいのつもりです。日本が好きです。時々右よりの発言をします。でも危ない人間ではありません。構造主義が好きなのですが、ポストモダンも好きです。あとマルクスも好きです。

専門は考古学です。地理情報システム(GIS)や統計学、空間分析、文化人類学(特に宗教人類学と経済人類学)、社会思想、進化考古学、景観考古学、人文地理学、数理生物、行動生態学などを勉強してきました。CRMや少数民族の文化復興運動についてもいろいろと考えています。最近はサブカルチャー特にオタク文化に興味があります。経済学は大の苦手です。

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