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岡本太郎がすごい

 前回のエントリーで、岡本太郎が「抽象画なら人種も国籍も超えることができる」と考えた点が面白かったと述べた。ただそれがなぜ面白いと思ったのかということを、上手く説明できていなかったような気がする。実は、岡本がこのようなことを言ったのには理由があって、当時、岡本が留学していたパリには、日本人留学生の絵描きが何人かいたらしい。ただ、彼らは西洋画を学んでそれを上手くまねて描いていたに過ぎず、岡本の目指していたものと違っていた。岡本は彼らのようにはなりたくなかった。ウィキペディアには次のように書かれている。

太郎は以前から感じていた「何のために絵を描くのか」といった美や芸術、自己に対する根本的な問いや、既成芸術への疑念を追求すべく、マルセル・モースのもとで、哲学・社会学・精神病理学・民俗学など、インスピレーションを得るべく絵とは直截関わりのない学問を学んだ。

(ウィキペディア)


 つまり岡本が「抽象画なら人種も国籍も超えることができる」と考えたことの裏には実はすごく深い理由があったと推察できる。そしてこのような留学時の様々な葛藤は他の留学生にも見ることができた。例えば遠藤周作の留学体験の話である。といっても、私は文学にも疎いので、遠藤の話を知ったのは佐伯啓思(著)「市民とは誰か」という本がネタ本なのだが。。。



 この本のあとがきに遠藤周作の「留学」という作品が取り上げられていた。佐伯さんによると、この「留学」という作品はパリでサド侯爵について研究する日本人留学生の話だという。この主人公は精神的に疲れきった一人の日本人留学生に出会う。彼はほかの日本人留学生のようにヨーロッパの学問の一部だけを猿真似し、そのような輸入学問を日本に持ち帰って成功する器用な輩にはなれなかった。ヨーロッパの歴史や文化は知れば知るほど奥が深くて、それを学ぶだけで一生を終えてしまうぐらい深遠なものだ。だから数年ヨーロッパにいただけでヨーロッパを知ったつもりになることなんてできない。結局この留学生は日本に帰ってしまうらしい。その後、主人公も同じようなことを考えるようになっていく。主人公の最初の仮説はサド侯爵の作品の中にキリスト教の処女性が関係しているというようなことだったらしいのだが、ヨーロッパ文化の途方もない長い歴史の中で異邦人としての日本人があえてヨーロッパ文化が生み出したサド侯爵を研究する理由がわからなくなってくる。「留学」という作品はだいたいこういう話らしい。で、佐伯さんによると、この話は遠藤のパリの留学体験がもとになっているのだという。このようなことが、佐伯さんの「市民とは誰か」という本のあとがきに書かれていた。その本が手元になくて記憶を頼りに書いているので、間違っている箇所もあるかもしれないが、大体このようなことが書かれていたと思う。
 
 私はこのあとがきをアメリカで勉強していたときに読んでとても感動した。当時、留学している理由がわからなくなりかけていたときで、まさしく同じような感覚に襲われていたからだ。科学系の学問のように客観的な学問なら西洋も東洋もないわけだが、人文系は文化や歴史を無視して猿真似などできない。人類学は社会科学の側面もあるのだが人文系の部分も残っているわけで、日本人である自分がアメリカ人類学や社会思想の理論を猿真似するだけでいいのかということを長いこと悩んでいた。そんなときに、この本のあとがきを読んで、同じようなことに悩んでいた日本人留学生が遠い昔にヨーロッパにいたということを知っただけで、自分が救われた気がした。

 こういう経験があったから、岡本太郎がパリに留学したとき、当時パリにいた他の日本人画家のように西洋絵画を猿真似して数年したら日本に帰って成功するという道をあえて選ばなかったことに共感を覚えたわけで、さらに文化や歴史が関係しない抽象画を岡本が選んだ理由というのがどこか理解できたような気がしたのだ。これが前回、岡本が抽象画を選んだことに私が興味をもった理由だ。

 さて、実は先々週、岡本太郎がマイブームになっていたので、PHP新書の『岡本太郎「太陽の塔」と最後の闘い』という本を読んでみた。先々週の土曜日の「美の巨人たち」も太陽の塔が紹介されていたので、万博と太陽の塔に関しては次回まとめて感想を書きたいのだが、このPHP新書『岡本太郎』にいろいろ面白い記述があったので少し紹介しておきたい。



 一つは岡本太郎の思想的スタンスだ。太陽の塔はモダニズムを標榜する万博に対するアンチテーゼとして建てられたというのはよく言われることだ。しかし、実は岡本は、モダニズムだけでなく、日本の伝統主義に対してもNOを突きつけていたのだという。つまり産業革命がもたらした近代主義でもなく、かといって弥生時代以来の農耕文化がもたらした日本の伝統文化といわれるものでもない、もっとたくましくて人間らしい精神、それを狩猟採集社会であった縄文文化に求めたのだという。この点に関しては、次回もう少し詳しく紹介したい。

 興味深かったもう一つの点は岡本太郎が晩年テレビのバラエティ番組に出るようになった理由である。「岡本太郎」の著者の平野さんは次のような解釈をしている。

 芸術で勝ち、縄文で勝ち、万博で勝った。そして敵がいなくなった。
 闘う相手がいなければ前衛は成り立たない。しかも自分で前衛の存在証明を吹っ飛ばしてしまった。啓蒙するテーマがなくなった。
(中略)
 しかもこの状況を放置すれば、今度は自分自身が権威になってしまう。下手をすれば教祖に祭り上げられてしまうかもしれない。想像を絶する絶望の中で、太郎さんはマイナスの道を選ぶ。
 それが「仮面」をかぶることだった。ぼくはそう確信する。
 あとは誤解されるしかない。バカを装う道しか残されていないのだ。そう考えたのではないか。テレビのバラエティ番組で道化を演じたのも、雑誌の人生相談でくだらない質問に答えたのも、すべては誤解されるためだった。その誤解によって自分自身を引き裂くために。

『岡本太郎』 (237-238ページ)


 平野さんの解釈が正しいのかどうかはわからない。ただ非常に興味深い解釈だ。たわけものを演じた織田信長や女遊びに興じた大石内蔵助など大きな目標のために自分の本心を隠すという話はよく聞くし、彼らも十分尊敬できる存在なのだが、岡本太郎はそれ以上に興味深い。なぜなら岡本の場合、目標のために周りを欺くのではなくて、目標を達成した後に、仮面をかぶったからだ。

 岡本の思想の一つは反権威だ。だから彼は常に権威と闘わなくてはいけなかった。しかし、闘う相手がいなくなったとき、自分自身が権威になるか、権威としての自分を否定するかの二つの道しか残されていなかった。アニメ「魔法少女まどか☆マギカ」の正義のために戦っていた魔法少女がいつの間にか魔女になってしまうように、権威や権力と戦っていたはずの多くの進歩的知識人たちはいつのまにか権威側・権力側に立ってしまっていた。もちろん、これは日本に限ったことではないだろう。反権威・反権力を掲げる世界中の左翼系知識人はその内部に常に矛盾をかかえた存在であるはずだ。なぜなら否定するはずの権威の側に立たなければ、権威を否定するだけの影響力を得ることができないのだから、彼らの目標は権威を否定すると同時に否定するべき権威を手に入れなくてはいけなかった。。。そのように考えると、岡本がもし権威に取り込まれることを回避するために意図的に道化の役を買って出たとしたならば、それは世界的に見ても、とてつもなくすごいことだったということになるだろう。


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専門は考古学です。地理情報システム(GIS)や統計学、空間分析、文化人類学(特に宗教人類学と経済人類学)、社会思想、進化考古学、景観考古学、人文地理学、数理生物、行動生態学などを勉強してきました。CRMや少数民族の文化復興運動についてもいろいろと考えています。最近はサブカルチャー特にオタク文化に興味があります。経済学は大の苦手です。

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